半世紀以上の歴史を持つロック音楽は、クラシック音楽やジャズなどさまざまな種類の音楽の要素を取り込んで発展を遂げた。その要素のひとつにレゲエやスカ、アフロビートといった非西欧諸国独特のリズムがある。ロック音楽が1980年代以降も発展できたのは、こうしたリズムの積極導入を図ったバンドや演奏家のおかげである。 そうしたバンドの代表格が70年代後期から80年代に活躍した米バンド、トーキング・ヘッズだが、リーダーのデヴィッド・バーン(ボーカル兼ギター奏者)は91年のバンド解散後も独自の活動を展開。昨年、最新作も出した。その彼の来日公演(1月27日)を見たが、見る者のダンス中枢を直撃する怒濤(どとう)のリズム攻撃が全く古びていないことに驚いた。 ドラム、パーカッションの両奏者とコーラス隊3人を含む計7人とダンサー3人を従えたステージは、最新作とヘッズの代表作「リメイン・イン・ライト」(80年)の楽曲がほぼ交互に登場する構成だが、会場の天井を打ち抜くようなバーンの咆哮(ほうこう)と、知的興奮を呼び起こすアフリカン・ポリリズム(複合的リズム)、おしゃれなダンスの融合が心地よい。真っ白な衣装に身を包んだ彼らの総合芸術の質の高さに驚くばかりだ。 人間の肉体や想像力に直接訴えかけるサウンドに団塊世代も若者も外国人もノリノリ。ネット登場以降の芸術がどれほど人間性を無視し、想像力や個性に欠けるかをまざまざと見せつけられた気がした。 |